2022年12月23日

 GEO600(GEO)は、ドイツ、ハノーファーの南約20kmにある、片腕の長さが600mの重力波検出用のレーザー干渉計です。マックス・プランク重力物理学研究所(アルバート・アインシュタイン研究所)によって運営されています。KAGRAはGEOと共に、2020年4月に国際共同観測を行いました。GEOはLIGOグループに属しており、GEOとKAGRAの共同観測もLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)の協定に基づく観測運転として正式に了承されたものです。LIGOとVirgoは2019年4月より2020年4月末までの予定で第3回観測運転(O3)を行なっていました。KAGRAはそれに参加すべく感度向上作業を行い、2020年3月末にLIGOとVirgoのO3観測への参加条件とされた、連星中性子星合体の平均観測可能距離である1Mpcを達成しました。しかしながら、ほぼ同時にLIGOとVirgoの観測運転がコロナ禍のために中断されました。そのためLVKの同時観測はO3では実現できませんでしたが、コロナ禍でも連続運転を行なっていたGEOと共同観測を行うこととなったという経緯でした。LVK観測として行われたため、観測データはLVKで共有され、データ解析もLVKコラボレーションとして共同で行われました。また、この観測は略称としてO3GKと名づけられました。この共同観測結果の論文がこの度、Progress of Theoretical and Experimental Physics (PTEP) に掲載されました。

 O3GK観測運転は2020年4月7日8:00(UTC)から4月21日0:00(UTC)まで行われました。観測中の連星中性子星合体の平均的観測可能距離はKAGRAが0.66Mpc(中央値), GEOが1.06Mpc(中央値)でした。合計観測時間はKAGRAが7.29日、GEOが10.9日、観測期間中の稼働率はKAGRA が53.3%、GEOが79.8%でした。

 重力波信号探索解析としては、4種類の解析が行われました。1つ目は連星中性子星合体信号探索で、時刻や方向を指定せずに全天から到来する連星中性子星合体重力波信号が探索されました。2つ目の解析は、全天バースト重力波探索と呼ばれ、詳細な波形モデルは指定せずに、信号の強度のみを指標にして信号を検出する手法が用いられました。これらの解析では統計的に有意な重力波信号は見つかりませんでした。

 3つ目の解析はO3GK観測中にガンマ線によって観測されたショートガンマ線バーストに付随した連星合体重力波信号の探索で、4つ目はショートガンマ線バーストとロングガンマ線バーストに付随した重力波を詳細な波形を仮定せずに探索する解析です。表1にO3GKで探索が行われたガンマ線バースト4つを示しています。このうち2つはショートガンマ線バーストで、2つはロングガンマ線バーストです。これ以外にもO3GK期間中にはガンマ線バーストは観測されましたが、それらは、発生時刻にGEOとKAGRAのどちらか、あるいは両方が観測モードになっておらずデータが利用できないなどの理由により解析対象にはなっていません。2つのショートガンマ線バーストに対しては、ガンマ線バーストの発生時刻と到来方向領域からの連星合体重力波信号の探索が行われました。

ガンマ線バースト名ガンマ線バーストのタイプ
GRB200412Aロング
GRB200415Aショート
GRB200418Aロング
GRB200420Aショート
表:解析されたガンマ線バースト

 また、4つ全てのガンマ線バーストに対して、波形モデルを仮定せずに信号の強度のみを指標とした探索が行われました。以上のデータ解析の結果、統計的に有意と言える重力波信号は検出されませんでした。

 以上のガンマ線バーストのうち、GRB200415Aはガンマ線観測で決められた到来方向が距離3.5Mpcの近傍銀河NGC253と一致しており、この銀河内で発生した可能性が高いと考えられます。発生源が近傍であるため、GRB200415Aに付随した重力波を観測あるいは制限することは天体物理的に非常に重要です。しかしながら、このO3GK観測でのGEOとKAGRAの感度ではその距離までの観測は難しく、このガンマ線バーストの起源については何も言えないという結論となりました。

 以上の全ての解析で、天体物理的に有意な結果を導くことはできませんでしたが、これはO3GKでの両検出器の感度が足りなかったことに起因します。現在LVKコラボレーションで主力として用いられているソフトウエアを用いて行われたデータ解析が全て問題なく行うことができたことは、今後KAGRAの検出器感度が向上しさえすれば、KAGRAデータが重力波天文学にすぐに貢献できることを示しています。

参考文献
LIGO Scientific Collaboration, Virgo Collaboration
KAGRA Collaboration First joint observation by the underground gravitational-wave detector, KAGRA with GEO600
Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2022, 063F01(2022)

KAGRAのイメージ図
GEO600 © H. Lück (Albert Einstein Institute Hannover)

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2022年12月12日

2022年11月13日(日)、「今年はちょっとハイブリッド!神岡で語る 宇宙と素粒子の世界最先端プロジェクト ~スーパーカミオカンデ・KAGRA一般公開~」を開催しました。 (さらに…)

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2022年8月1日

KAGRAが学認のIdP of the Year 2021を受賞しました。
詳細はこちらをご覧下さい。
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/12215/

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2022年5月15日

[2022年5月15日更新;次回更新は2022年7月15日までの予定]

LIGO,Virgo,KAGRAは,O4観測運転を同時に開始するため密接に連携しています。2022年12月中旬にO4観測運転を開始する予定で、11月中旬には試験運転を開始する予定です。試験運転中に発見される候補イベントに対する低遅延アラートについては,低遅延システムのテストとイベントの科学的価値を保つために発信される可能性があります。

現時点では、LIGO Hanford、Virgo、KAGRAで観測を開始する予定です。各検出器のコミッショニングが進む一方で、観測準備に向けた計画が見直されています。LIGO Livingstonはアップグレード作業が予定より時間がかかっているため、2023年2月には観測に参加できる見込みになっています。現在遅れを取り戻すための対応が検討されています。

検出器の予測感度に変更はありません。LIGOは連星中性子星に対して160-190 Mpcの感度目標を立てています。Virgoは80-115 Mpcの感度を目標にしています。KAGRAはO4の初めから参加することが決まっています。そこでは1 Mpc以上の感度で運転を行い、O4の終わりまでに感度を向上させて観測を再開する予定です。

観測スケジュール

重力波観測のスケジュールは、約1年間運転する観測運転、装置の構築とコミッショニングのための観測休止期間、コミッショニングと観測運転を繋ぐ試験運転に分けられます。現在見込まれている長期的な観測スケジュールは以下の通りです。この図は各観測運転期間での連星中性子星合体からの重力波の観測可能距離を示しています。

O4では、4つの施設(LIGO Hanford (LHO)とLIGO Livingston (LLO)、KAGRA、Virgo)が、中間に1ヶ月の休止を含めた一年間の観測を予定しています。KAGRA はVirgoとLIGOともに観測を開始し、コミッショニングのために一旦観測を休止し、O4観測の終盤により感度を上げて観測を再開する予定です。

O5観測の開始日、期間、感度は、現時点での予定であり、観測開始までに変更となる可能性があります。

本件に関する問い合わせは,各コラボレーションの代表までお願いします。

  • Patrick Brady (Spokesperson, LIGO Scientific Collaboration)
        lsc-spokesperson_AT_ligo/org
  • Giovanni Losurdo (Spokesperson, Virgo Collaboration)
        virgo-spokesperson_AT_ego-gw/it
  • Jun’ichi Yokoyama (Board Chair, KAGRA Scientific Congress)
        kscboard-chair_AT_icrr/u-tokyo/ac/jp

(”_AT_” は “@” に変更して、そのあとの “/” は “.” に変更してください)

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2022年3月15日

[2022年3月15日更新;次回更新は2022年5月15日までの予定]

LIGO,Virgo,KAGRAは,O4観測運転を共に開始するために密接に連携しています.2022年12月中旬にO4観測運転を開始する予定ですが,現在でもパンデミックによる遅延を取り戻すための作業を続けています.11月中旬には試験運転を開始する予定です.試験運転中に発見される候補イベントに対する低遅延アラートについては,低遅延システムのテストとイベントの科学的価値を保つために発信される可能性があります.4月下旬にウェビナーを開催し,各検出器における作業状況と残されている課題について説明する予定です.

LIGOは連星中性子星に対して160-190 Mpcの感度目標を立てています.Virgoは80-115Mpcの感度を目標にしています.KAGRAはO4の初めに1Mpc以上の感度で運転を行い,O4の終わりまでに感度を向上させるための作業を行う予定です.

本件に関する問い合わせは,各コラボレーションの代表までお願いします。

  • Patrick Brady (Spokesperson, LIGO Scientific Collaboration)
        lsc-spokesperson_AT_ligo/org
  • Giovanni Losurdo (Spokesperson, Virgo Collaboration)
        virgo-spokesperson_AT_ego-gw/it
  • Jun’ichi Yokoyama (Board Chair, KAGRA Scientific Congress)
        kscboard-chair_AT_icrr/u-tokyo/ac/jp

(”_AT_” は “@” に変更して、そのあとの “/” は “.” に変更してください.)

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2021年12月9日

 2021年11月20日(土)にスーパーカミオカンデ・KAGRAオンライン一般公開を開催しました。新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、昨年に続きオンラインでの一般公開となり、飛騨市ひだ宇宙科学館カミオカラボとスーパーカミオカンデと協力して実施しました。8つのプログラムでのべ771名の方にご視聴いただきました。その中でKAGRA地下実験施設ライブツアーについてはライブ配信中最大112名の方にご視聴頂きました。

 「視聴者参加型企画 スマホで宇宙線withカミオカラボ」では、目に見えない宇宙から降り注ぐ粒子「宇宙線」を神岡町公民館に検出器を置いて測定し、スマホのアプリを通じて視聴者と一緒に検出数をカウントし、宇宙線の性質やスーパーカミオカンデがなぜ地下で実験をしているか、などを考察しました。池田一得助教(写真左)とサイエンスコミュニケーターの高知尾理さん(写真右)が、カミオカラボからの施設紹介の中継を交えながら楽しく伝えました。視聴者の方がチャットで報告してくれた観測数をグラフにして、見事に観測数が場所ごとに変わる現象が確認できました。

 「若手研究者・学生座談会」では、近くにいながら普段なかなか接点のない、KAGRAとスーパーカミオカンデの学生さんの日常生活をスーパーカミオカンデの中野佑樹特任助教(写真左上)をファシリテーターとして語り合ってもらいました。視聴者の方にもZOOMで参加いただき、「神岡生活で欲しいものは?」「普段の生活で出てしまう研究の習慣は?」「英語はどうやって勉強しますか?」などの質問に楽しく答え和やかな会になりました。

 「KAGRA地下実験施設ライブツアー」では、重力波観測研究施設長の大橋正健教授が施設内をご案内しました。KAGRA実験の肝となるレーザー干渉計の仕組みについて模型などを用いて説明しました。

 「スーパーカミオカンデ地下実験施設ライブツアー」では、スーパーカミオカンデ実験代表者の中畑雅行教授が施設内をご案内しました。YouTubeチャットでいただいた、たくさんの質問に答えながら検出器の構造やニュートリノ検出の方法などを説明しました。

 「もっと知りたい!研究者のお仕事」では、スーパーカミオカンデ、ハイパーカミオカンデ、KAGRAの最前線で活躍する研究者達が、日常どんな目標を持ち、どんな作業をしているかなどをお話し、質問にも答えていきました。

もっと知りたい!研究者のお仕事〜KAGRA〜

 横澤特任助教と譲原特任研究員がクイズも交えて、KAGRAの制御室から普段どんな研究をしているのかなどをお話しました。

もっと知りたい!研究者のお仕事〜スーパーカミオカンデ〜

 スーパーカミオカンデで水の調整グループで活躍する家城佳助教。一見物理とは関係ないと思われる水をきれいにする作業が、陽子崩壊探索やニュートリノ研究にとても重要だと語りました。

もっと知りたい!研究者のお仕事〜ハイパーカミオカンデ〜

 現在、ハイパーカミオカンデ検出器空洞へとつながるトンネル掘削を進める、田中秀和助教が検討を進めながら実験開始を目指している様子を語ってくれました。

 最後のQ&Aコーナーでは、スーパーカミオカンデの中畑教授(左)、KAGRAの宮川准教授(右)が視聴者の皆さんからの質問に答えました。

 いずれのプラグラムもたくさんの視聴者にチャット等でご参加いただき、ライブならではの双方向のやり取りが生まれました。今後とも皆様と繋がることのできるイベントを開催していきたいと思います。

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