O3 GEO-KAGRA観測結果論文発表

 GEO600(GEO)は、ドイツ、ハノーファーの南約20kmにある、片腕の長さが600mの重力波検出用のレーザー干渉計です。マックス・プランク重力物理学研究所(アルバート・アインシュタイン研究所)によって運営されています。KAGRAはGEOと共に、2020年4月に国際共同観測を行いました。GEOはLIGOグループに属しており、GEOとKAGRAの共同観測もLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)の協定に基づく観測運転として正式に了承されたものです。LIGOとVirgoは2019年4月より2020年4月末までの予定で第3回観測運転(O3)を行なっていました。KAGRAはそれに参加すべく感度向上作業を行い、2020年3月末にLIGOとVirgoのO3観測への参加条件とされた、連星中性子星合体の平均観測可能距離である1Mpcを達成しました。しかしながら、ほぼ同時にLIGOとVirgoの観測運転がコロナ禍のために中断されました。そのためLVKの同時観測はO3では実現できませんでしたが、コロナ禍でも連続運転を行なっていたGEOと共同観測を行うこととなったという経緯でした。LVK観測として行われたため、観測データはLVKで共有され、データ解析もLVKコラボレーションとして共同で行われました。また、この観測は略称としてO3GKと名づけられました。この共同観測結果の論文がこの度、Progress of Theoretical and Experimental Physics (PTEP) に掲載されました。

 O3GK観測運転は2020年4月7日8:00(UTC)から4月21日0:00(UTC)まで行われました。観測中の連星中性子星合体の平均的観測可能距離はKAGRAが0.66Mpc(中央値), GEOが1.06Mpc(中央値)でした。合計観測時間はKAGRAが7.29日、GEOが10.9日、観測期間中の稼働率はKAGRA が53.3%、GEOが79.8%でした。

 重力波信号探索解析としては、4種類の解析が行われました。1つ目は連星中性子星合体信号探索で、時刻や方向を指定せずに全天から到来する連星中性子星合体重力波信号が探索されました。2つ目の解析は、全天バースト重力波探索と呼ばれ、詳細な波形モデルは指定せずに、信号の強度のみを指標にして信号を検出する手法が用いられました。これらの解析では統計的に有意な重力波信号は見つかりませんでした。

 3つ目の解析はO3GK観測中にガンマ線によって観測されたショートガンマ線バーストに付随した連星合体重力波信号の探索で、4つ目はショートガンマ線バーストとロングガンマ線バーストに付随した重力波を詳細な波形を仮定せずに探索する解析です。表1にO3GKで探索が行われたガンマ線バースト4つを示しています。このうち2つはショートガンマ線バーストで、2つはロングガンマ線バーストです。これ以外にもO3GK期間中にはガンマ線バーストは観測されましたが、それらは、発生時刻にGEOとKAGRAのどちらか、あるいは両方が観測モードになっておらずデータが利用できないなどの理由により解析対象にはなっていません。2つのショートガンマ線バーストに対しては、ガンマ線バーストの発生時刻と到来方向領域からの連星合体重力波信号の探索が行われました。

ガンマ線バースト名ガンマ線バーストのタイプ
GRB200412Aロング
GRB200415Aショート
GRB200418Aロング
GRB200420Aショート
表:解析されたガンマ線バースト

 また、4つ全てのガンマ線バーストに対して、波形モデルを仮定せずに信号の強度のみを指標とした探索が行われました。以上のデータ解析の結果、統計的に有意と言える重力波信号は検出されませんでした。

 以上のガンマ線バーストのうち、GRB200415Aはガンマ線観測で決められた到来方向が距離3.5Mpcの近傍銀河NGC253と一致しており、この銀河内で発生した可能性が高いと考えられます。発生源が近傍であるため、GRB200415Aに付随した重力波を観測あるいは制限することは天体物理的に非常に重要です。しかしながら、このO3GK観測でのGEOとKAGRAの感度ではその距離までの観測は難しく、このガンマ線バーストの起源については何も言えないという結論となりました。

 以上の全ての解析で、天体物理的に有意な結果を導くことはできませんでしたが、これはO3GKでの両検出器の感度が足りなかったことに起因します。現在LVKコラボレーションで主力として用いられているソフトウエアを用いて行われたデータ解析が全て問題なく行うことができたことは、今後KAGRAの検出器感度が向上しさえすれば、KAGRAデータが重力波天文学にすぐに貢献できることを示しています。

参考文献
LIGO Scientific Collaboration, Virgo Collaboration
KAGRA Collaboration First joint observation by the underground gravitational-wave detector, KAGRA with GEO600
Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2022, 063F01(2022)

KAGRAのイメージ図
GEO600 © H. Lück (Albert Einstein Institute Hannover)