KAGRAは5月25日0時にO4観測運転を開始しました。
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LIGO-Virgo-KAGRAコラボレーションは,まもなく開始される次期観測に向けて準備を進めています。前回の第3期共同観測運転から3年間にわたる重力波検出器のアップグレード作業を経て,第4期共同観測運転(Observing Run 4; O4)を2023年5月24日に開始する予定です。LIGOは、コミッショニング(調整作業)からエンジニアリング・ラン(試験運転)と呼ばれる最終点検期間に移行しました。Virgoは限られた時間のみ試験運転を行いながら、感度向上のための調整作業を行っています。KAGRAはO4開始1週間前までは調整作業を行います。
この共同試験運転の目的は、アップグレードされた検出器と検出器ネットワークにおいて共同観測運転を行うために必要なシステムをテストすることにあります。
LIGOとVirgoの装置の最新のアップグレードにより、より微弱な重力波を検出出来るようになり、これまで以上に多くの重力波信号を検出することが出来るようになります。
LIGOは連星中性子星合体の観測可能距離において予定していた目標に近い160 Mpc (メガ・パーセク;1 Mpc は約326万光年)で稼働しています。Virgoは5月24日にはO4を開始せず、感度を制限している鏡の不具合に対処するために調整作業を継続します。この作業の後、VirgoがO4に加わる日をより正確に評価できます。 KAGRAは,O4 開始時に予定していた最低限の感度である1Mpcを達成しています。O4最初の1ヶ月間の観測運転の後、KAGRAは調整作業を再開し、O4の後半に向けて一層の感度向上に取り組みます。
これまでの観測運転と同様に、O4期間中も重力波信号の検出候補に関するアラートが一般に配信されます。公開アラートの受信方法と解釈に関する情報は、https://wiki.gw-astronomy.org/OpenLVEM で入手出来ます。観測装置と解析システムが十分安定した時点で、自動的にアラートが配信される予定です。試験運転中のアラートは、検出された信号がマルチメッセンジャー天文学にとって特別に科学的価値があると判断されない限り、手動による評価・検証は行われません。
O4は、最大2ヶ月の調整作業のための中断期間を含めて、20ヶ月間行われます。これは以前のアナウンスより期間が延長されていますが、それによりO4でより多くの科学的成果が得られると共に、O4終了後に予定されているアップグレードの準備により多くの時間を使えることになります。
調整作業期間、試験運転期間,そして観測運転期間について
重力波検出器の運用は,検出器の感度向上と観測による科学データ収集のバランスを保つため,いくつかの段階を設けています。 機器のメンテナンスとアップグレードされた装置のインストールが完了すると,検出器は調整作業期間に移行します。調整作業期間では,個々のアップグレードした機器を検出器全体に統合し,可能な限り設計感度に近づけることに重点が置かれます。
検出器が安定した感度を達成すると,試験運転が始まります。ここでは,最終的に観測運転を開始する直前の点検として,できる限りの長時間運転の実現を目標とするのです。ある段階から次の段階への移行するための判断には多くの要因が関係するため、実際の移行の決定は状況によって変わりうるものです。
重力波検出器について
LIGOはNSFが出資するプロジェクトで,このプロジェクトを構想し創設したカリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学によって運営されています。Advanced LIGO プロジェクトへの財政的支援はNSFが主導し,ドイツ(マックス・プランク協会),英国 (科学技術施設評議会),オーストラリア(オーストラリア研究評議会)がプロジェクトに参加し,多大な貢献をしています。世界中の1,500人を超える科学者が,LIGO科学コラボレーション(GEOコラボレーションを含む)を通じてこの研究に参加しています。この他の提携先はhttp://ligo.org/partners.phpのリストにあります。
Virgo コラボレーションは現在,15か国(主にヨーロッパ)の142の機関から参加する846人のメンバーで構成されています。欧州重力天文台(EGO)は,イタリアのピサ近郊にあるVirgo 検出器を管理しており,フランスの Center National de la Recherche Scientifique (CNRS),イタリアの Istituto Nazionale di Fisica Nucleare (INFN),オランダの国立素粒子物理学研究所 (Nikhef)から資金提供を受けています。 Virgo コラボレーションに参加している機関のリストは,http://public.virgo-gw.eu/the-virgo-collaboration/ にあります。より詳細については,Virgo の Web サイト (http://www.virgo-gw.eu) を参照してください。
KAGRA は,岐阜県飛騨市神岡町にある 3 km の腕の長さをもつレーザー干渉計です。 ホスト機関は東京大学宇宙線研究所(ICRR)で,プロジェクトは国立天文台(NAOJ)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)との共同運営です。KAGRAコラボレーションは,17の国と地域の115機関から参加する480名を超えるメンバーで構成されています。KAGRAの一般向け情報はWebサイト https://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/en/にあります。研究者向けの情報はhttp://gwwiki.icrr.u-tokyo.ac.jp/JGWwiki/KAGRAからアクセスできます。
LIGO-Virgo-KAGRA O4観測運転について、前回発表した計画から2点変更となったことをお知らせします。
O4の開始時期について、LIGOとVirgoの干渉計において観測開始の前提条件としている安定性と感度のレベルに到達するための作業を行うため、現在、5月24日に観測を開始する予定です。KAGRAの干渉計では、これまでの調整作業は順調に進んでおり、観測開始までの期間を利用してより安定性と感度のレベルを高めるための作業を行います。
またO4の観測運転期間は、これまでの12か月から正味18か月に延長される予定です。この変更は、LIGOとVirgo の干渉計におけるO5までのアップグレード計画に対応するためのものです。O4の観測運転期間の延長は、KAGRAにとっても重力波の観測の可能性が高まるなど、O4の科学的成果を高め、国際コミュニティに対してより大きな貢献を果たすことが期待されます。
詳しくは以下をご参照ください。
GEO600(GEO)は、ドイツ、ハノーファーの南約20kmにある、片腕の長さが600mの重力波検出用のレーザー干渉計です。マックス・プランク重力物理学研究所(アルバート・アインシュタイン研究所)によって運営されています。KAGRAはGEOと共に、2020年4月に国際共同観測を行いました。GEOはLIGOグループに属しており、GEOとKAGRAの共同観測もLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)の協定に基づく観測運転として正式に了承されたものです。LIGOとVirgoは2019年4月より2020年4月末までの予定で第3回観測運転(O3)を行なっていました。KAGRAはそれに参加すべく感度向上作業を行い、2020年3月末にLIGOとVirgoのO3観測への参加条件とされた、連星中性子星合体の平均観測可能距離である1Mpcを達成しました。しかしながら、ほぼ同時にLIGOとVirgoの観測運転がコロナ禍のために中断されました。そのためLVKの同時観測はO3では実現できませんでしたが、コロナ禍でも連続運転を行なっていたGEOと共同観測を行うこととなったという経緯でした。LVK観測として行われたため、観測データはLVKで共有され、データ解析もLVKコラボレーションとして共同で行われました。また、この観測は略称としてO3GKと名づけられました。この共同観測結果の論文がこの度、Progress of Theoretical and Experimental Physics (PTEP) に掲載されました。
O3GK観測運転は2020年4月7日8:00(UTC)から4月21日0:00(UTC)まで行われました。観測中の連星中性子星合体の平均的観測可能距離はKAGRAが0.66Mpc(中央値), GEOが1.06Mpc(中央値)でした。合計観測時間はKAGRAが7.29日、GEOが10.9日、観測期間中の稼働率はKAGRA が53.3%、GEOが79.8%でした。
重力波信号探索解析としては、4種類の解析が行われました。1つ目は連星中性子星合体信号探索で、時刻や方向を指定せずに全天から到来する連星中性子星合体重力波信号が探索されました。2つ目の解析は、全天バースト重力波探索と呼ばれ、詳細な波形モデルは指定せずに、信号の強度のみを指標にして信号を検出する手法が用いられました。これらの解析では統計的に有意な重力波信号は見つかりませんでした。
3つ目の解析はO3GK観測中にガンマ線によって観測されたショートガンマ線バーストに付随した連星合体重力波信号の探索で、4つ目はショートガンマ線バーストとロングガンマ線バーストに付随した重力波を詳細な波形を仮定せずに探索する解析です。表1にO3GKで探索が行われたガンマ線バースト4つを示しています。このうち2つはショートガンマ線バーストで、2つはロングガンマ線バーストです。これ以外にもO3GK期間中にはガンマ線バーストは観測されましたが、それらは、発生時刻にGEOとKAGRAのどちらか、あるいは両方が観測モードになっておらずデータが利用できないなどの理由により解析対象にはなっていません。2つのショートガンマ線バーストに対しては、ガンマ線バーストの発生時刻と到来方向領域からの連星合体重力波信号の探索が行われました。
ガンマ線バースト名 | ガンマ線バーストのタイプ |
GRB200412A | ロング |
GRB200415A | ショート |
GRB200418A | ロング |
GRB200420A | ショート |
また、4つ全てのガンマ線バーストに対して、波形モデルを仮定せずに信号の強度のみを指標とした探索が行われました。以上のデータ解析の結果、統計的に有意と言える重力波信号は検出されませんでした。
以上のガンマ線バーストのうち、GRB200415Aはガンマ線観測で決められた到来方向が距離3.5Mpcの近傍銀河NGC253と一致しており、この銀河内で発生した可能性が高いと考えられます。発生源が近傍であるため、GRB200415Aに付随した重力波を観測あるいは制限することは天体物理的に非常に重要です。しかしながら、このO3GK観測でのGEOとKAGRAの感度ではその距離までの観測は難しく、このガンマ線バーストの起源については何も言えないという結論となりました。
以上の全ての解析で、天体物理的に有意な結果を導くことはできませんでしたが、これはO3GKでの両検出器の感度が足りなかったことに起因します。現在LVKコラボレーションで主力として用いられているソフトウエアを用いて行われたデータ解析が全て問題なく行うことができたことは、今後KAGRAの検出器感度が向上しさえすれば、KAGRAデータが重力波天文学にすぐに貢献できることを示しています。
参考文献
LIGO Scientific Collaboration, Virgo Collaboration
KAGRA Collaboration First joint observation by the underground gravitational-wave detector, KAGRA with GEO600
Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2022, 063F01(2022)


KAGRAが学認のIdP of the Year 2021を受賞しました。
詳細はこちらをご覧下さい。
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/12215/