重力波望遠鏡KAGRAのサファイア鏡4基が完成、来年の観測開始へ

2018/8/21 東京大学宇宙線研究所

東京大学宇宙線研究所を中心として、国立天文台、高エネルギー加速器研究機構などが共同で推進し、岐阜県飛騨市の地下に建設中の重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)の最重要構成要素のひとつ、サファイア鏡(ミラー)4基すべてが完成しました。日本国内製サファイア単結晶で製作した2基のうち、最後の1基を東京大学柏キャンパスの宇宙線研究所で報道陣に公開しました。


4基全て完成したKAGRAのサファイア鏡の1基

重力波について

重力波とは、ブラックホール連星や中性子連星が合体するときなどに発生する「時空のひずみ」が波として宇宙空間をつたわるもので、1916年にアルバート・アインシュタインが一般相対性理論からその存在を予言しました。それから約100年経った2015年、アメリカにあるLIGOの2台の重力波望遠鏡が13億光年離れたところにあるふたつのブラックホールが合体した時に発生した重力波を世界で初めて直接観測し、その存在が証明されました。その後、いくつかの重力波観測に成功し、ヨーロッパのVirgo観測所も加わり、重力波で宇宙を観測する重力波天文学が幕を開けました。日本のKAGRAもこのネットワークに加わることでより正確な重力波観測をおこなうことが期待されており、現在急ピッチで観測に向けた準備がすすんでいます。

重力波望遠鏡

重力波望遠鏡は、重力波による時空のひずみを観測する装置で、望遠鏡の腕の長さ3kmに対して10のマイナス19乗メートルという、水素原子の大きさ(約10のマイナス10乗メートル)と比べて9桁ほど小さなひずみの観測をおこないます。そのためにレーザー光をビームスプリッターという鏡でL字の2本の腕の方向に分け、それぞれの先端に配置した鏡で反射させて戻ってきた光のわずかな位相差(到達時間の違い)を測定するいわゆるマイケルソン干渉計で重力波を観測します。

なぜサファイアの鏡を使うのか

この時、鏡の分子の熱運動も観測のノイズになるので、KAGRAでは鏡を冷却し分子運動によるノイズを小さくします。そこで、冷やすことでうまく熱運動を抑えることができ、熱伝導もよい(つまり冷やしやすい)サファイアの単結晶を鏡の材質として選びました。KAGRAの観測時、サファイアの熱がもっとも伝わりやすい20ケルビン(およそマイナス253℃)で運転します。
この鏡を冷却するという技術は現在常温で運転しているLIGOなどでも将来の感度向上のために導入が検討されている技術のひとつで、日本のKAGRAはその先進的なアイデアをいち早く取り入れているといえます。

サファイア鏡について

今回完成したKAGRA用のサファイア鏡は直径22㎝、厚さ15㎝、重さ23㎏で、高性能サファイアミラーとしては世界最大です。L字型に伸びる2本の長さ3㎞の腕それぞれの先端と根元でレーザー光を何百回も折り返す「光共振器」として使うため、サファイア鏡は合計4基必要で、今回で全ての鏡がそろうことになります。

光共振器を用いて感度をあげる

重力波による空間のひずみは腕の長さに比例します。つまり、できるだけ長い距離をつかって測定すると小さなひずみまで検出できるようになります。そのために世界の重力波望遠鏡は3~4kmという長い腕を持つのですが、10のマイナス19乗メートルという小さなひずみの検出のためには1往復では足りないため、それぞれの腕の先端と根元に鏡を向かい合わせに置き、合わせ鏡の要領でレーザー光を何百回も往復させて(KAGRAの場合約1000回)実効的な距離を稼ぎます。この仕組みを光共振器と呼びます。
感度を高めるには共振器の中に光を効率よくため込む必要があります。KAGRAの場合、光が共振器の中を一往復する間に失うレーザーパワーを100ppm(1/10000)以内に抑えることを目標としています。ところが、往復する間に光が共振器の外に漏れたり鏡に吸収されたりするのでこれは簡単ではありません。例えば、レーザー光が真空ダクト内を伝搬する間に径が広がるのを防ぐため、鏡の表面をわずかに凹面にして光を集めるようにしています。また、凹面部分が完全な球面ではなくわずかでも誤差があると共振器の外に光が逃げて行ってしまうため、鏡を研磨するときに極力この誤差を小さくし、かつ反射膜コーティングの膜厚が一様になるような非常に厳しい要求値で製作しています。KAGRAで用いるサファイアで鏡を作る場合、この厳しい要求値を大きなサイズで実現できるかどうかは前例がなくやってみるまでわかりませんでした。


サファイア鏡の設置場所。エンドミラーは□で示した低温容器内に、
インプットミラーは○で示した低温容器内に設置する。

国内結晶メーカーと共同で新たな課題を克服

KAGRAの4基のサファイア鏡のうち、腕の先端に設置したはじめの2基の鏡(エンドミラー)はレーザー光の反射のみを考えればよく、米国製のサファイア結晶から製作した鏡が要求性能を満たしました。一方、手前に設置する2基の鏡(インプットミラー)は入射するレーザー光や光検出器へと導くレーザー光がサファイア結晶中を通過します。このとき結晶中の屈折率が一様でないとレーザー光がゆらぎ、感度低下の一因となってしまいます。また、結晶中の屈折率が変化する部分では、光の吸収も大きいことがわかりました。一般にサファイア結晶はLIGOなどで用いられている合成石英と比べて屈折率の非一様性がひと桁ほど大きく、屈折率がなるべく一様で低吸収の結晶を開発することが3、4基目のサファイア鏡(インプットミラー)の成功の鍵となっていました。東京大学宇宙線研究所の廣瀬榮一特任助教の率いるKAGRAの鏡チームは日本国内の結晶メーカーと試行錯誤しながらなんとか要求値を満たすサファイア結晶を製作することに成功しました。さらに、わずかに残った屈折率の非一様性の影響を抑えるために鏡の厚さを場所によって変更を加えることで補正し、十分な性能のインプットミラーが完成しました。

今後の見通し

今回完成したサファイア鏡を今秋KAGRAの低温真空容器内に設置し、2019年内に最終構成での観測を開始できるよう調整を続けます。その先を見据え、鏡チームはサファイア鏡をさらに大型化することで低周波数域(100Hz以下)での感度を飛躍的に上昇することを検討しています。そのために、この春から前述の結晶メーカーと東京大学宇宙線研究所の間で100㎏クラスのサファイア結晶開発を目指した共同研究契約を結び、KAGRAのインプットミラー用結晶開発で得た経験とノウハウをベースにした研究開発を開始しました。

補足:KAGRA用サファイア鏡製作にかかわっている協力団体

株式会社信光社(インプットミラー用低吸収結晶、日本)
GTクリスタルシステムズ(エンドミラー用結晶、アメリカ)
AMETEK, ZYGO Extreme Precision Optics(研磨、アメリカ)
LMA(コーティング、フランス)
Coastline Optics(スペアエンドミラー製作、インプットミラー研磨の一部、アメリカ)
CSIRO(サファイアミラープロトタイプ製作、オーストラリア)
Caltech, the LIGO laboratory(サファイアミラー評価、アメリカ)
東京大学物性研究所工作室(サファイアミラー用ハンドリング冶具製作、日本)

関連するニュース記事

– 日本経済新聞 – 重力波望遠鏡「かぐら」心臓部の鏡を公開 東大 リンク

– 産経ニュース – 重力波観測施設「かぐら」のサファイア鏡がすべて完成 来年秋に観測開始へ 東京大 リンク

– 日テレニュース24 – 重力波観測装置「KAGRA」主要部品公開 リンク

– NHK News Web – 「重力波」を観測する「KAGRA」の鏡が完成 リンク