KAGRAのサファイア鏡が完成、低温運転へ

2018/2/8

岐阜県飛騨市で建設中の大型低温重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)の主要な構成品である、4台のサファイア鏡のうち2台が2017年末に完成しました。 そのうちの1台をKAGRAに組み込み、今春中の低温運転を目指します。いよいよ、3kmというサイズの干渉計では世界初となる、低温鏡を使った運転が始まります。

KAGRAは2010年に建設が始まり、2014年までにL字型にのびる2本の長さ3kmのトンネルなどの空洞掘削を完了、2016年に第1期実験施設の試験運転を行いました。 その後、最終形を目指して高性能鏡防振装置や低温鏡懸架装置、サファイア鏡などの開発と準備を進めてきました。

今回製作した鏡は、冷却により効果的に熱による振動を低減できるサファイアの単結晶でできており、先行する重力波実験のLIGOやVirgoで使われている石英鏡とは異なることがKAGRAの大きな特徴のひとつです。 KAGRA重力波検出器はファブリーペローマイケルソンレーザー干渉計と呼ばれる光学構成となっていて、2本のトンネルそれぞれに配置した、サファイア鏡2台で構成される長さが3㎞の光共振器(ファブリーペロー共振器)の長さのわずかな違いを観測することで重力波をとらえます。 高い感度を達成するためには共振器の損失が小さいことが必要で、鏡そのものが非常に高精度かつ超低損失であることが要求されます。 そのためにアメリカのZYGO社で鏡表面を半径約2㎞の理想的な球面からのずれが数オングストロームという精度で研磨し、フランス・リヨンのLMA (Laboratoire des Matériaux Avancés) でレーザー光の散乱や吸収が非常に小さい超低損失コーティング(反射膜)を施しました。できあがった鏡の評価には高度な計測技術が要求されますが、LIGOラボラトリーの協力のもと、アメリカ・パサデナのカリフォルニア工科大で鏡面の形状や反射膜の品質などを測定しました。 測定後すぐの2018年1月中旬に千葉県柏市の宇宙線研究所で最終的な確認とクリーニング、鏡の表面を守る保護膜を施し、1月末に富山大学へと運びました。

現在、富山大学でサファイア鏡を低温懸架装置につり下げるための部品や鏡の位置を制御するための磁石を取り付けています。その後、岐阜県飛騨市のKAGRA実験サイトに運び、片側のトンネル先端(Xエンド)の低温懸架装置内に設置します。もう一方のトンネル先端(Yエンド)にすでに設置されている試験用のサファイア鏡とともにマイナス250℃以下まで冷却してマイケルソン型干渉計を完成させ、今春中に3kmというサイズの干渉計では世界初となる、低温鏡を使った運転を開始する予定です。

残り2台のサファイア鏡は現在製作中で、2018年の夏までの完成を目指しています。これらのサファイア鏡は光共振器を構成するためのもので、トンネルの手前側の低温懸架装置に設置します。


カリフォルニア工科大で反射膜測定中のサファイア鏡。直径22cm、厚さ15cm、重さ23kg。
(Courtesy of LIGO Laboratory)