2025/11/13
GW250114: これまでで最も強い重力波信号
2025年1月14日、2台のLIGO検出器がこれまでで最も強い重力波信号である、GW250114 を検出しました。この信号は、2つのブラックホールが合体したときに発生した重力波で、信号の強さ（SNR）は 約80でした。これは、これ以前に検出された最も強い重力波と比べて3〜4倍強いもので、重力波研究にとって非常に貴重な観測となりました。
どんなブラックホールが合体したの？
GW250114は、太陽の約34倍と32倍の質量を持つブラックホール同士の合体によって生じたと考えられています。この合体によって、より大きなブラックホールが誕生し、その過程で重力波が宇宙空間に放たれました。
何がわかったの？
この非常に強い信号のおかげで、以下のようなことを詳しく調べることができました：
- ブラックホール振動の分析：合体後のブラックホールの振動（準固有振動と呼ばれる）を分析することで、複数の振動モードの周波数と減衰率を測ることができました。このようなブラックホールの性質を探る研究は「ブラックホール分光学」と呼ばれます。
- ブラックホールの性質の検証：ブラックホールの準固有振動モードの測定により、合体後にできたブラックホールが、アインシュタインの一般相対性理論で予測される「カー・ブラックホール」の性質を持っているかどうかを調べ、カーブラックホールからのずれは見られないことが分かりました。
- ホーキングのブラックホール面積定理の検証：ブラックホールの合体によって、事象の地平面（ブラックホールの「表面」）の面積が減少しないというブラックホール面積定理が正しいかどうかを調べました。その結果、理論通り合体後のブラックホールの事象の地平面の面積は、合体前の2つのブラックホールの面積よりも大きいことがこれまでにない良い精度で観測的に確認されました。
なぜこのイベントが重要なの？
GW250114は、たった1つの事象で、これまでの複数の観測結果を上回る精度で理論の検証ができたという点で非常に重要です。ブラックホールの性質や重力のふるまいを、これまで以上に詳しく調べることができ、今後の重力波天文学の発展に大きく貢献すると期待されています。
このような重力波信号は、宇宙の最も極端な現象を「聞く」ことで、私たちの物理法則がどこまで正しいのかを確かめる手段となっています。LIGO、Virgo、KAGRAの国際協力によって、これからも宇宙の深い謎が少しずつ明らかになっていくでしょう。
用語
ブラックホールの準固有振動モード
太鼓をたたくと常に同じような振動数の音が発せられるが、同じようにブラックホールに擾乱が加えられると、ブラックホールの質量と自転角運動量できまる一定の振動数と減衰率で減衰振動することが知られている。これをブラックホールの準固有振動という。振動数と減衰率の組み合わせは1つではなく多数存在するが、各振動数と減衰率の組み合わせは準固有振動モードと呼ばれている。連星ブラックホールが合体して形成されたブラックホールには、合体直後に準固有振動が励起され、それに伴う重力波が放射され観測されている。
ホーキングの面積定理
ブラックホールの事象の地平面の面積は減少しないという一般相対性理論の定理。1971年にスティーブン･ホーキングによって導かれた。これによると、2つのブラックホールが合体して1つのブラックホールになった場合、合体後のブラックホールの事象の地平面の面積は、合体前の2つのブラックホールの事象の地平面の面積の和より大きくなければならない。
論文
発見論文
arXiv: https://arxiv.org/abs/2509.08054
Journal: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/kw5g-d732
ブラックホール分光学と一般相対性理論の検証論文
https://arxiv.org/abs/2509.08099
サイエンス解説
日本語
発見論文
https://ligo.org/wp-content/uploads/2025/09/GW250114_discovery_Japanese.pdf
ブラックホール分光と一般相対性理論の検証論文
https://ligo.org/wp-content/uploads/2025/09/GW250114_TGR_Japanese.pdf
英語
https://ligo.org/science-summaries/GW250114_discovery/
https://ligo.org/science-summaries/GW250114_TGR/
その他の言語: https://ligo.org/science-summaries/
LIGOによる発表ページ(英語)
https://ligo.org/detections/gw250114-10-years-of-gravitational-wave-astronomy/