KAGRAの検出器
どうすれば極小の「時空のさざ波」である重力波をとらえられるか。多くの科学者が試行錯誤を繰り返してきましたが、現在、国際的に主流となっているのは「レーザー干渉計型検出器」と呼ばれる装置です。
米国のLIGOも、欧州のVirgoも、日本のKAGRAもこの方法を採用しています。重力波がやってくると空間がほんのわずかだけ伸び縮みします。直交する空間の片方が伸びると、もう片方は縮みます。レーザー干渉計型検出器は、このわずかな長さの違いを直交する2本の腕の中を何度も往復させたレーザー光を利用して検出します。
KAGRAの特徴は、地面の振動を低減するために地下に設置していることや、熱による雑音を低減するために鏡を極低温に冷やすことです。
KAGRAの鏡の防振装置
KAGRAのようなレーザー干渉計型重力波望遠鏡で時空のゆがみである重力波を検出するためには、干渉計の主要な4つの鏡(図の ITMX、ITMY、ETMX、ETMY)が自由に動ける状態になっていることが必要です。地面に固定されていると重力波を検出することは出来ません。
そのため、KAGRAでは、鏡を振り子によって吊すことで、上下方向には自由に動けず、光軸方向には自由に動ける状態にして重力波を検出します。微小な重力波を検出するためには地面の震動の影響を出来る限り少なくする必要があり、鏡は振り子構造の防振装置にとりつけられ、振り子自体の構造にも工夫が施されて地面振動の影響を抑えています。これを「鏡防振懸架装置」といいます。KAGRAには全部で20基の鏡防振懸架装置があり、主要な4つの鏡以外の鏡も、地面に対して固定すると地面振動によって揺らされてそれが雑音となるため、鏡は振り子構造の防振装置にとりつけられ、地面振動の影響が抑えられています。
これらの防振装置によって、地面で常時発生しているミクロンレベルの振動を 100 億分の 1 に減衰させることができます。
ただ、2024年1月1日の能登半島地震のように大きな地震が起きると、振り子を吊す装置自体が通常よりも遙かに大きく揺らされることになります。また、その揺れの周波数は、検出対象の重力波の周波数帯よりかなり低い帯域となっています。そのため、その揺れをこれらの振り子によって防振することは出来ません。
KAGRA では、そのような大きな地震による揺れへの対策として、鏡が大きく動きすぎないように鏡の周辺にストッパーを装備しており、鏡と振り子の過剰な揺れを防いでいます。万が一、鏡がワイヤーからはずれても、鏡はそのストッパーによって受け止められてそれ以上落下しない仕組みとなっています。
能登半島地震でもそのストッパーのおかげで、鏡が落下するといった事態は防ぐことができました。しかし、振り子が平時よりも大きく揺さぶられることで、様々な不具合が発生しました。
図:重力波望遠鏡KAGRAの鏡や防振懸架装置の全体の概略図
◾KAGRAの干渉計を構成する鏡の略語
ETMX:End test mass X(Xアームの先端部分にある)
ETMY:End test mass Y(Yアームの先端部分にある)
ITMX:Input test mass X(Xアームの中間にある)
ITMY:Input test mass Y(Yアームの中間にある)
レーザー光を反射させる主要な4つの鏡。素材はサファイア。
BS:Beam Splitter(ビームスプリッター)レーザー光を直交する2つの腕に振り分ける鏡。
IMC:Input Mode Cleaner (インプットモードクリーナ)光源から入射するレーザー光の形を綺麗に成形し、干渉計側に送る装置。3つの鏡で構成される(MCo:Mode Cleaner Output mirror、MCe:Mode Cleaner End mirror、MCi:Mode Cleaner Input mirror)。
PR :Power Recycling (パワーリサイクリング)レーザーパワーを干渉計内で再利用して感度を上げる技術。3つの鏡で構成される(PRM:Power Recycling Mirror、PR2、PR3)。
IMMT:Input Mode Matching Telescope(インプットモードマッチングテレスコープ)IMC で成型されたレーザーを干渉計の共振器のもつ固有の形へ成形する装置。2つの鏡で構成される(IMMT1、IMMT2)。
SR:Signal Recycling (シグナルリサイクリング)重力波信号を再利用して感度を上げる技術。3つの鏡で構成される(SRM:Signal Recycling Mirror、SR2、SR3)。
OMC : Output Mode Cleaner (アウトプットモードクリーナー)出射レーザーの形 を綺麗に成形する装置。
OMMT:Output Mode Matching Telescope(アウトプットマッチングテレスコープ)SRM を通過したレーザーを OMC の固有の形へ整形する装置。2つの鏡で構成される(OMMT1、OMMT2)。
OSM : Output Steering Mirror(アウトプットステアリングミラー)出射レーザーの方向を変え、OMC に送るための鏡。