重力波の研究を担う未来の君たちへ

重力波研究を担う未来の君たちへ

 20世紀前半に物理学史に残る多くの輝かしい業績を残したアインシュタイン。その中でも重力と特殊相対性理論を統一した一般相対性理論は理論物理学の輝かしい成果として、100年近く経った今でもそのほころびは見えていません。アインシュタイは一般相対性理論で重力を時空の曲がりとして記述したのですが、その際に、この理論に特有の予言をしました。それが重力波です。重い物体が高速で動き回ると、その周りの空間がゆがんで、そのゆがみが真空中を伝わると予言しました。つまり重力波は重い物体が高速で動き回ることで、離れた地点の空間そのものが伸び縮みする現象と言えるかと思います。

 アインシュタイン自身は、重力波によって予想される空間の伸び縮みがあまりにも小さいことから、重力波の予言は純粋に理論的なもので、実際に観測するのは不可能ではないかと考えたと伝えられています。しかし、それから100年経ち、科学技術が驚異的な進歩を遂げました。その結果今や重力波が実際に観測にかかると真剣に期待されており、世界各地で重力波の世界初観測に向けた競争が繰り広げられています。日本のグループはこのホームページで紹介するKAGRAプロジェクト(現在愛称を決めようとしています)で重力波の世界初観測をめざしています。

 では、いったいどのような物体からの重力波を捉えようとしているのでしょうか?KAGRAプロジェクトでは宇宙で超新星爆発と呼ばれる星の大爆発の際に、その中心に生まれる中性子星と呼ばれる直径10km程度ながら太陽の重さの1.4倍くらい重い星を観測します。このような中性子星が2つで連星になってお互いの周りを高速で回っているところから来る重力波を捉える予定です。このような連星はだんだん軌道が近づいて最後には合体してブラックホールになると考えられています。このように重力波は宇宙でブラックホールが生まれる瞬間を観測して、ブラックホールの謎を調べる唯一の方法と言えると思います。

 ひとたび重力波が観測できるようになると、重力波を使って宇宙のことがいろいろと調べられると期待されます。2つだけ例をあげましょう。銀河にはどれもその中心に巨大ブラックホールがあると言われていますが、このような巨大ブラックホールはどのように成長したのでしょうか?重力波で2つの大きなブラックホールが合体して巨大ブラックホールへと成長していく姿が見えるかもしれません。また、この宇宙はインフレーションとその後の高温・高密度の宇宙が膨張し、冷えて今の姿になったと考えられています。宇宙マイクロ波の観測で宇宙誕生から約40万年後の姿が見えています。しかしそれ以前は電磁波では観測できません。唯一観測が期待されるのが重力波です。ビッグバンの高温・高密度の宇宙のゆらぎが将来は重力波で観測できるのではないかと期待されています。

 重力波の研究はまさに21世紀の新しい天文学と言えると思います。未来の研究を担う君たちがこの研究分野に飛び込んでくることを期待しています。

KAGRA プロジェクト代表
梶田 隆章